Side T SS
ハクシュ/その6−4
「けっこう呑むねぇ」
「親戚の宴会には狩り出されるんで」
迎え酒と言って出された缶ビールを空けながら、ひとしきりビデオ談義に花を咲かせた。
完全に使い方を間違えているが、酒をすすめる理由なんてそんなものだ。
「『いい子』なんだ」
「こんなけお酒飲んでAV話に食いつくあたしにいーますか」
「うん。」
即答されて表情が固まった。
「きっついね」
「そう?」
上目遣いで何やら探られるような目を向けられて、
固まってしまった笑顔のまま、手に持っていた缶を空けた。
「つくり笑いはねもっと大人になってから覚えなさいな。表情作るの、下手だ、君は」
思わず握り締めた手の中で、音を立てて缶がつぶれた。
「動揺したら意味がないんだよ。演じきれないなら、正直なほうがいい」
「それは…お説教?」
「いや、忠告。さっきとは別の意味で、君はいい子だ」
苦笑いしかできなかった。
すっかり潰れてしまった缶を握ったまま身動きできない。
「降参した?」
「はい」
手の中のつぶれた缶を脇に置いて、両手を挙げて降参を表明する。
これ以上の言い逃れをする必要も理由もない。
「よしよし、じゃあ、仕事に入ろうかな」
「?」
「ここに、在学中に撮りためたデータがたんまりあるわけですが」
テーブルの下に転がっていたバッグの中から、小型のハードディスクが2本出てきた。
「編集、手伝わない?」
「ぜひ!!」
くいついたのにため息をつかれて、首を傾げた。
「そーゆー顔をしてなさい」
見透かされても怖くない。
そんなことを、思った。