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ハクシュ/その6−6

クローゼットを開けたら箪笥があった。ものすごく不釣合いな気がしたけれど、順は考えないことにした。
一番下の引き出しを引いた。いきなり直前の話のネタが新品で並んでいて、さすがに黙って閉じた。
今回については冗談を言う余裕がない。どうせバレているだろうことも、気付かないことにした。
小型のカメラとマイクとケーブルに、携帯用の無線機とビデオと…エアガンのボンベ?
これは上から開けた方が正解だったか。
とりあえず手をつけずに引き出しを開けて閉じる作業を繰り返す。

「…これ…」

無造作にDVD−Rが放り込まれた引き出しで手が止まった。

「昔のビデオ焼いてもらった。マスターも痛みかけてたから、そのうち補正入れようかと思って、そのまんま」

小さくもれた順の声を聞き逃さなかったらしい。
背中の後ろから声がした。

「補正なしでいいなら焼いとくけど」
「いいの?」
「いいよ。修正も入ってないからがっかりするのも混ざってるけど」
「そういう事情はあんまり知りたくないなあ」

それでも声は弾むし、引き出しをあさる手は止まらない。

「おお…デビュー作だ!これもうマスター手に入らないと思ってた」

ディスクに直接書き込まれた走り書きに声が上がる。

「…マニアックなものを…」
「見たよ。探して。すっごく大変だった。ダビングのダビングのまたダビングくらいのデータでだけど」
「それはありがとう」

当初の目的を忘れているようなので、手近にあったスウェットを投げつけた。

「だいぶ大きいから、着れると思う」
「ありがと」

素直に頷いて、順はその場でシャツを脱ぐ。

「予想を超えた仕上がりだね」

剣待生という特殊さを除いても、筋肉の質はいい。

「お褒めにあずかり光栄です」

その場で着替えを済ませてしまうと、順は脱いだ服をたたんで、両腕に抱えた。