Side T SS

断片/001

そういえば さらりと うるじゃんネタバレ入ってます
気になる方はスルーするように



起きているのか確かめもせず、シャワーを浴びてくると小さく言って順が出て行ってからどれからたったか。

シャワー浴びたいのはこっちの方だ

ひっ捕まえて言ってやろうかとも思ったけれど、あまりに順に余裕がなくて、さすがに思いとどまった。
軽口も冗談も、何を言ってもとどめになる。
自分を追い込みすぎて、笑い飛ばす前に自分の胸がえぐられる。
そんな切羽詰った状態。
つまり、ここにいられなかった。
いくら鈍かろうが、さすがにわかる。

だらだらと伸ばしっぱなしにしていた髪が体に張り付いて気持ちが悪い。
そういえば前は短かったんだっけと、そんな当たり前のことをことを思い出した。
熱がこもって鬱陶しいのに、布団を蹴ってしまうには外気は冷たい。

「あっつ…」

我慢しきれなくなって、体を起こした。寒いくらいの室温が、心地いい。
こんなことなら、さっさと布団をはねてしまえばよかった。
枕元に転がしていた腕時計を見たら、午前1時を越えていた。

「あー…ま…そんなもん、か…」

繰り返された行為を思い返すに、妥当な時間の経過だろう。
何をそれほどまでに思い詰めているのかと暴れる気が失せて、勢いに流されたのは最初だけ。
与えられた不名誉なはずの淫魔の称号は、当人の状態をさしおいても本物だったらしい。
膨大なはずの知識は不慣れなはずの行為を簡単に自分のものにした。
そこまでは、予想の範囲、だった気はする。
予想を越えた…はずしたのは、順が自分が考えていたよりもずっと臆病だったということ。
弱いのではなくて、臆病。
子どもには重すぎた事実を久我の家という言葉で誤魔化し、姫という言葉に隠して、絶対的な主従関係を作り上げた振りをして、本当に大切な人の言葉の意味が届かなくなるくらい自分を殺し続けた代償。弱さも強さも関係なく、自分を手放すことで自分の感情から逃げこんだ、分厚い壁。
形は違っても、幼い頃から自分が抱えているものを思えば、わざわざ責める気にならない。
出会って間がない頃の世話の焼きようを、好意ととるには自惚れが過ぎる。面倒見のよさはもともとの気質なのか、あとから身についたものなのか。後者とすれば、そこまで自分をすり減らして順が手に入れようとしていたものはなんだったのか。
気付いていないつもりはなかったが、自棄というよりすがりつかれたと思うのは、気のせいではないだろう。
与えるにしろ与えられるにしろ、奪うにしろ奪われるにしろ、結局は自分の一番の弱みを晒す行為だ。
ここまで落ち着いていられるのは、ずいぶん長い間、一番自分のどうしようもない部分を晒しっぱなし投げっぱなしにしていたからだろう。虚勢を張る理由も、ことに及んでしまえばとうにない。
自分の弱みを握られて、それでも不安にならないのは、とうの昔にすっかり信頼してしまっていたからだ。たった一人の命令を除けば、順が自分を裏切ることはないという確信は、自惚れと呼ぶべきか。

「まったく」

手の届くところにあったシャツと、ジャージのズボンだけ身に着けて、重い体をむりやりベッドから引きずり出した。最初の一歩は壁に頼った。
外開きの玄関をゆっくり開けてみたら、思った通りすぐに突き当たった。
腰を沈めて力任せにおしやると、ごとりと重い音がした。

「そんなところで泣いていないで、入って来い」

ドアに押しのけられて倒れていた順がのろのろと起き上がり、うつむいたまま頷いた。
ひざを抱えようと伸ばされた順の腕を取って、無理やり引き上げ肩に担ぐようにして立ち上がらせた。

「見られたくないんなら、中、入れ」
「…うん…」

肩口がぬれていくから、顔を背けてやる。

「これ あたしのシャツ…」
「どーせ汚れるんだ、あんたのでいい」

部屋の中に引きずり込んで、ドアを閉める。
ほとんど同時にしがみつかれて、ため息が出た。

自分で上塗りした傷は、きっとずっと止まったままだけれど。
誰かに伝えることは、もうないのだろうけれど。
あんたが残すのは、命なんだから。

「今から変えていけ」

初めて順が、声を上げて泣いた。



後夜祭で無道が自覚するっていうのは その通りだなーと思うんだけど

何かあるなら(というか 順の糸が切れるなら)入院する直前じゃね? ちう ハナシ
タイトルないので、とりあえずここに

職場で書く話ではないな うん


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