Side T SS
断片/002
箱。
玄関先の、一歩踏み出すその場所に、箱。
高さ15センチ程度。が、2箱。
24本 だそうだ。
…24本…?
「秋味?」
「あ、おかえり」
気付くなら、ドアが開いた時に気付け。
踏み越えるにも鬱陶しい高さに、ため息が出た。
「なんだ、これ」
「…もらったというか、嫌がらせというか」
中等部の寮にビール2箱…もう空いてるから3箱か…を送りつけてくるのは、確かに嫌がらせだ。
「断れなくて」
「それはいつもだろ」
賞味期限の近づいた季節限定ビールの在庫を、押し付けられて来たってことか。
もう、冬期限定が店頭に山積みになってる頃だ。
「全部、呑むつもりか」
「…うーん…」
24×3箱。1日3本消費で12日。5本ずつ空ければ1週間。
「呑むか」
それくらいなら、なんとかなる。
…と、思っていた。
炭酸がかぷかぷと腹の中で膨張を主張する。
独特の苦味に舌が慣れる頃には、体温は上がり思考も動きも緩慢になっていた。
これが1週間毎日続くのか。
正直、うんざりした。
「何本空けた」
「2…本、今3本目」
向こうも状況は変わらないらしい。
これは、正直、きつい。
降参するなら今のうち。
「誰でもいい。手伝えそうなの、片っ端から当たってけ」
「ぃえっ さー」
履歴か短縮ダイヤルか、適当に相手を選びながらケイタイでコンタクトを取っていく。
もう、自分が何を言っているかも怪しいんじゃないだろうか。
存外な弱さに意外な気もしたけれど、背に腹は変えられない。
実際、思うほど強くないのであれば、この量を毎日続けるのは危険だろう。多分。
手元の4本目を空けつつ、そんなことを考えた。