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断片/004

「大漁ー」
両手で紙袋を抱えて、順が帰ってきた。
相変わらず部屋は暗い。テレビだけが煌々と部屋を照らしている。
どうしてこいつはギャルゲーをやるときだけ、明かりを消すんだろう。
「点けるよ?」
「ああ」
肩でスイッチを入れると、玄関に脱いだ靴をそのままにして順が部屋に上がってきた。
両手がふさがっているから細かいことは、後に回す。
抱えていた紙袋をテーブルの上に開けると、チョコレートの山ができた。
「今年もずいぶんな量だな」
「いい先輩ですから」
「ついでに後輩もいただいてくるわけか」
「人聞き悪いよ」
とりあえず手作りと市販品を分ける。
市販品を開封してわざわざ刃物を仕込むような、手の込んだことをしてきた者はまだ一人もいないから、市販品だけ口にしていれば安泰だ。
順が手作りのものだけ袋に戻したのを確かめてから、綾那が紙袋を差し出した。
「本命まざってるかもよ」
「誰からかもわからんのに、本命もなにもあるか」
紙袋をテーブルに開けてより分けてみたら、ひとつも市販品は入っていなかった。
「アンタ恨まれる勝ち方してたから」
「手加減は一切してない。恨まれるいわれはない」
「だから恨まれるんだよ」
「ふん」
空けた紙袋に山になったチョコレートを戻す。
「これ、溶かさずに捨てちゃっていいかな」
「好きにしろ」
「綾那さんつめたーい」
「口んなか血まみれにしたくない」
「きらっきらの目してガラス仕込んでるんだから、女の子って怖いよねー」
自分あての手作りも綾那の紙袋に移して、順は立ち上がった。
「捨ててくる」
「ん」
生返事になった綾那を見ると、セーブをしながら手元も見ないでシンプルなラッピングの箱を開けていた。
「ガラス仕込んであるかもよ」
「必要ないだろ」
「ない、かな」
「必要になったら、仕込むガラスで首をかけ」
玄関に脱いだままだった靴を履いて、扉を開けたまま立ち止まっていたけれど
「それは、ない」
珍しくはっきり言い切って、順は部屋を出ていった。


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