Side T SS
断片/008
珍しく付いてきたと思ったら
「出すよ」
と順はさらに珍しいことを言う。
「いらん」
綾那がいぶかしそうに睨みつけても、順の気が変わる気配はない。
「理由のわからんのは気持ちが悪い」
「たんじょーび」
言われて思い出したらしい。
あぁ、と短く言ってから
「だったらなおさらいらん」
綾那は新作の棚から離れていった。
「ちょっと!」
綾那は通路の狭い店の中を早足で通り抜けていく。
「せっかく付いてきたのにさー、無駄足にしないでよ」
狭い階段を上がって、中古品のフロア入ると、綾那は完動品の棚も通り過ぎた。
仕方なく追いかけていくとジャンク品のワゴンの前で立ち止まり、PS2のコントローラーを二つ見繕って順の前に差し出した。
「これ」
「…って、動くかどうかもわかんないのに?」
「パーツ取るだけからこれでいい」
「新作おごったげるって」
「ゲームはいい」
綾那は聞く耳を持たず、結局ジャンク品のコントローラー2つで決着してしまった。
順がレジにいるうちに綾那は店を出て行った。清算と同時に追いかけたが、店の前にも姿はない。
追いかけるのも諦めて、駅に向かおうとしたら後ろから缶が投げつけられた。
「ひっど!」
「気付かずに帰ろうとするから」
道に落ちた缶を拾い上げ、綾那はもう一度投げてよこした。
そのままだまって右手を差し出すから、しぶしぶとコントローラーの入った袋を渡した。
「ほんとにいいの?」
「いい。助かった。ありがとう」
綾那は駅に向かって歩き出した。
「ゲームほしがるかと思ってたのにさ」
「いらん」
投げつけられた缶を開け、歩きながらぶつぶつ言っていた順には
「買われたら売れなくなる」
綾那がつぶやいた声は聞こえていなかった。