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断片/010

そうか、ここで使うのか

独り言はもう、いちいちつっこまないことにした。
人の気配に過敏なようにしつけられてしまっているから、徹夜に付き合わされて寝付けない。
それを伝えてもまったく改善がないのだから、諦めるしかない。
我慢の限界とか、体力の限界によるけれども。

枕の位置を変えれば多少は気にならなくなると聞くものの、ベッドの真下でぶつぶつ言いながら携帯ゲームをやるのは勘弁していただきたい。
やるならヘッドホンを付けてくれという主張は、窮屈だという協調性のない一言と拳でその場で却下されている。
ヘッドホンを付けたところでぶつぶつ言ってる事実に代わりはないのだから、あまり意味はないのかもしれない。
相変わらず綾那の独り言は続いているし、キーを叩くような音も途絶えない。
とりつかれたようにゲームをしていなければ、そうそう迷惑なやつではないのだ、たぶん。
ゲームをしていない時がほとんどないから、実際のところはわからないけれど。
拳で語るとはよく言ったもので、殴り合いの数だけ理解は深まったのだと思ってはいる。
向こうがどう思っているかを確かめたことはないから、勘違いかもしれない。

「綾那ー、もーちょっと静かにゲームやろうよー」
「悪い」

聞いちゃいないのに、謝りはするのだ。
逆、聞いていないから素直に謝る。

…厄介なのと一緒になっちゃったなぁ…

そう思ったところで今さら何かが変わるわけでもなく。
ほかの誰かがすぐに思いつくわけでもなく。
ようやく気がまぎれてうとうととし始めていたというのに

「ぁあっ」

充電切れでセーブし損ねた人の絶叫が、自分の意識を現実に引きずり戻すから

「いー加減にしなよ、あんた!」

結局ベッドの上段から飛び降りて胸倉を掴んでつかみ合いの喧嘩になって、血まみれで床に倒れたまま朝を迎えるという、喧嘩っ早い酔っ払いのような生活が気付いたら日常になっていた。


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