犬と王様

(2010.02.28) ネタ

もうちょっとまとめたいので、あくまでラフ

タイトルは元ネタそのまんまの芝居のタイトル
…でも、原作は読んでません…



「久しぶりに泣いたー」
「弱いよね、こういう話」
「なんでかねー」
「知らないよ」




南十字星駅で




劇場を出るまでは饒舌だったのに、いつのまにか順は何も言わなくなっていた。
いつもなら無駄な知識をたっぷり加えて語りに入っているはずが、まったく無言で一歩前を歩いている。
こういう時はよくないこともいろいろ考えていたりするのだけれど、夕歩も敢えて尋ねなかった。
全編を通して語られたのは、大切な人を助けるために自分を犠牲にしてもいとわなかった人たちの命をかけた選択。
「サザンクロス駅へ行くんだ」
不意に順が言った。
「石炭袋の向こうへ?」
「ほうんとうのさいわいのために」
「え、どっち?」
「へ?」
それが劇中のものなのか、モチーフになった銀河鉄道の夜のものなのか、判断しかねた。
尋ねられた意図がわからず、順も間抜けな声を上げた。
「野方さんがさー、結婚するとは思わなかったんだ」
あ、話そらした。
不服そうな顔に気づかないふりを順は続けている。
「ほんとうのさいわいって、なんだったんだろう」
「それは、どういう」
答える前に、順は背中を向けて、また一歩前を歩き出した。
「同じことしたら、怒るでしょ」
「怒るよ」
「でも、さ、未来のあたしにとって、夕歩がもういなくて、
 それがただひとつの選択だったら、同じことをするよ?」
「私が信じると思う?」
「うん」
悔しいくらいにまっすぐな即答。
「過去のあたしにとって、そのときの未来のあたしはありえないあたしだしさ」
「未来が変わるってことは、未来の順は消えちゃうってことだよ?」
「夕歩のいない世界に、あたしだけ残ってたって意味ないし」
そういうことはこっち向いて言って、という無言の抗議も、きっと気付かないふりで逃げ切ろうとしている。
「夕歩がいない未来が消えて、夕歩がいない世界のあたしも消えて、夕歩がいる現実と、夕歩がいる未来があるなら、それでいいんだって」
「ほんとうのさいわい」
「なのかなーって、さ」
「その発想がすでにうざい」
その場で膝をついてうなだれた順の背中に、とどめの蹴りを入れてもよかったのだけれど、
「どこまでもいっしょにいこう」
立ち直らせるにはそれだけで十分のはずだった。



これは順夕か、絶頂期の綾染だよなあといつも思ってたんでねー